川の思い出

立会川にボールを落とし 拾うために 下流に向かって歩く 川の流れは 小さな子どもが追えるほどに緩やかで 次の橋で拾おうと 子どもなりに必死で 気付けば西小山 諦めて帰る川の長いこと 呑川の桜の下を歩き 小学校の先生の説明を聞く 花の色 川の音 空の色 風の音 先生の説明は耳に入らず 列をなす友だちから離れ 気配を消し 気付けばひとり 学校に帰る道の心細いこと 石神井川沿いの荒れ地に サッカーボールを探しに行き 蛇に出くわしたこと 渋谷川にも 目黒川にも 烏山川にも 北沢川にも 野川にも 仙川にも 神田川にも 千川にも 多摩川にも 隅田川にも 荒川にも 江戸川にも 思い出が詰まっている なぜ思い出は 川に結びついているのだろう 数限りない どうでもいい思い出が 水に流されることなく 川の岸辺に残っている 暗渠になって川は消えても 思い出は消えずにいる